私的名盤 #2:Sainte Anthony’s Fyre

偶々知ったことだが、ヤフーオークション(現ヤフオク!)が日本でサービスを始めてきょうでちょうど20年。わたしはサービス開始とほぼ同時にアカウントをつくった。売ったり買ったりの履歴を見るとじつに面白いし興味深い。なんでこんなものに入札したんだろうと首を傾げたくなるものもあれば、出品して売り払ってしまったことを未だに後悔しているものもある。20年のあいだには3度の引っ越しがあり、そのたびにオークションを使って手持ちの品々を手放してきたけれど、引っ越し毎の大粛清を生き残ってきたのが今回のブツ。 Sainte Anthony’s Fyre。履歴によると落札したのは18年前 。

● 番号無し

ジャケットをはじめとするこれらの画像を見てピンと来る方はきっと音楽がとても好きなひとだろう。わたしもピンと来たのだが、未知のグループ。調べるもその頃のネットの状況では全く情報は得られなかった。オークションのページにはサイケデリックだとの説明があったので、手許の『Fuzz, Acid and Flowers』(1993年版)をひらくと果たしてそこにかれらの名前を見つけることができた。オークションだが、内容がよくわからないのでジャケ買いの感覚で入札。競合者もいなかった模様であっさりと手に入れることができた。当時は出品者/落札者間の連絡は、夫々の個人のメールアドレスを介して行うという、今にしてみれば牧歌的なものだったので、同じような音楽の愛好者だと思われた出品者さんとメールで幾度かメッセージをやり取りした結果、「サイケデリックというよりハードロック好きのあいだでは昔から知られた」アルバムらしいということがわかった。実際聴いてみてびっくりしたなあ。完全なるアンダーグラウンド。知らなかった音との素敵な邂逅。確かに表面上はハードロックあるいは、原初のヘヴィ・メタルなのだが、まとうのはまぎれもなくサイケデリックのにおい。サイケデリック、トリオ、さらにファズ、というと真っ先にブルー・チアーのことが思い出されるが、彼らがどこか冷ややかで他に対して全く関心を持たないでいるのに比べ、いったいアンプの使い方を知らんのかというほどにフルテンで、どこをとっても「Me!Me!Me!Me!Me!Me!Me!」と聞こえてくるかれらの音は耳に障りじつに鬱陶しいが、姿勢が徹底していて清々しく、それはそれは比類がないほどに美しい。

さきほどエントリをあげるに当たって、久しぶりに『Fuzz, Acid and Flowers』を参照したのだけれど、う~ん、これ今読むと書き手の評価は高くないというか、ディスってると言ってもよいぐらい。言いたいことは理解できないこともないが、それにしてもあなたホントにこのアルバム聴いたの?と疑問に思うほどにひどい。まったく覚えがないのだけれど (自分で行ったことであることは確かだが) 、どこかのレコード店の通販リストからの切り抜きと思われる紙の帯が Sainte Anthony’s Fyre のページに張り付けてあるのを今回発見した。かなり熱の込められたコメントは、『Fuzz, Acid and Flowers』のそれとは好対照で素晴らしいと思った。首肯できることばかり書いてあり、わたしもこれぐらいのことが言ってみたいと羨ましくなった。

● Fuzz, Acid and Flowers より
● 通販リストからの切り抜き。オリジナルLPの商品説明。写っていませんが、右端に60k越えのプライス提示あり

所有しているアルバムは盤起こしのブートレッグCD(Discogsでは売買が禁止と表示される…)で、音質はお世辞にもよいとは言えず、針音は無論のこと、1曲目の冒頭では音源のレコード盤にあったと思われる派手な針飛びすらそのまま収録されている。だがこの程度の瑕疵はアルバムの価値を減じるものでは到底ない。5年ほど前には正規で再発されたらしいが、あっというまに廃盤。amazonなどを眺めるとけっこうなプレミアのついた価格で販売されている。ネットの時代になってサイケレア盤はリイシューされる数も増え、出されるスピードも加速しているように感じるけれど、「こんなのが再発されてたんだ!」と、あとになって知ることも多い。そんなていたらくなので、わたしも再発盤は持っていませんが、これを読まれて興味を持った方、もし適正な値段で転がっているのを見つけたならぜひ買ってください。損はしないと思います。それにすでにお持ちで手放してもよいという方、もちろん買い取りいたします。

今回もお読みくださいまして、ありがとうございました。

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